熊篠慶彦著『たった5センチのハードル』

セックスボランティア』の参考文献リストにあがっていた本。書中にもセックスボランティアの制度に関する言及がいくつかある。著者のウェブサイトによると、熊篠慶彦という名前はペンネームとのこと。
著者は1969年、神奈川県厚木市生まれ。生まれつきの脳性麻痺のため車椅子生活。この本では、障害者として性に真っ向から挑んできた思いが中心に綴られているが、それ以外にも、障害を抱えて生きてきたこれまでの人生、社会に対する提言など書かれている。人によって見方はさまざまだと思うが、私はエッセイ集としてこの本を読んだ。ちょっとした冗談なんかもたくさんあるし。
著者は1970年代半ばに小学校へ、1980年代初頭に中学校へと進む世代なので、障害を持った人に対する社会の視線というものが、現在よりもずっと差別的なものである様子が書かれている。小学校入学にあたっては、就学猶予(にしてくれたのではなくて、そうさせられた)ということで養護学級へ、高校入試の際は別室受験、慶大通信制の試験では、願書を出せば全員入ることができるものなのに、入学拒否通知が送られてきたり。(当然のことながら、これには抗議をして入学することができたのだが)こうした記述を見ると、設備の面でも、意識の面でもバリアフリー化が、つい最近になってようやく進んできたということを忘れていた自分に気付く。
もちろんこうした差別に対する怒り声だけで構成されているわけでなく、支えてくれた友人、彼女たちに対する感謝の思い、さらには自分のウェブサイトに寄せられた質問に対する回答なんかも載っている。
本の最後では、著者が社会学者の宮台真司と会って、風俗のバリアフリー化の状況や、現代の若者がコミュニケーション下手になっていることについて、意見を交換している。
多岐にわたっている本なので、私の知らないいろいろなことが見えてきた。3年前の本だけど、ぜんぜん古びてない(ということは社会が進歩していないということか)ので、『セックスボランティア』で障害に興味を持った方はぜひ読んでみて下さい。

著者のウェブサイト(熊篠邸の地下室)
http://www.netlaputa.ne.jp/~k-nojo/CHIKA/index.html
地下室というタイトルには、いつかこの本で語られてきたような問題が、屋上に出る、つまり日の目を浴びるようにという願いが込められているそうだ。